第16回 若手優秀講演賞 (2019年度)

受賞者 受賞講演について
南畑 淳史

(みなみはた あつし)

(中央大学)

[講演題目]
  
非対称疎行列を係数とする連立一次方程式に対する精度保証付き数値計算の数値的比較

[講演概要]
  
本講演では、疎行列を係数に持つ連立一次方程式の精度保証付き数値計算のうち、特に、係数行列が非対称行列の場合を扱っている。本講演の提案手法では、従来法の欠点であった、条件数が大きくなってしまう点や疎行列の性質が崩れてしまうという点を、これまで誤差評価の観点からあまり使われてこなかった前処理法に着目して解決する方法を提案し、その有効性を多くの数値実験から示している。実応用では、疎行列を係数に持つ連立一次方程式が多く現われるため、本研究は幅広い分野への貢献が期待できる。講演の予稿においても多くの数値実験の結果を丁寧に説明しており、講演のスライドにおいても、従来手法と提案手法を丁寧に比較しながら説明した。

立岡 文理

(たつおか ふみのり)

(名古屋大学)

[講演題目]
  
行列実数乗の計算に対する数値積分法のための前処理について

[講演概要]
  
本講演では、行列の実数乗を数値積分により計算する場合の計算効率の向上を扱っている。従来法では行列を定数倍する前処理による計算効率の向上が考えられてきたが、条件数 が大きい場合にはその有効性が不十分であった。本講演では、定数のかわりに行列を掛ける前処理を提案し、条件数を減少させる行列の選び方を提案するとともに、数値実験により、誤差の収束速度向上と所定の精度に必要な積分点数の削減が可能であることを示した。講演の予稿もわかりやすく記述されており、スライドにおいても論旨が明快で配慮がゆきとどいている。

松家 敬介

(まつや けいすけ)

(武蔵野大学)

[講演題目]
  
離散 Gray-Scott モデルの時空パターンと平衡解の Turing 不安定性

[講演概要]
  
微分方程式の解の性質を保存したまま離散化することは可積分系における主要な研究テーマである。可積分系の解の構造を保存する「適切な」離散化によって生まれた離散可積分系は純粋数学と応用数学を繋ぎ新たなブレークスルーを引き起こしている。松家氏は非可積分系である自己触媒反応の数理モデルとして知られている Gray-Scott モデルに対してもこの問題意識を持ち込み、その解の特徴を保持した離散系および超離散系(セルオートマトン)を構成することに成功した。本講演では、松家氏が提案した離散 Gray-Scott モデルについて、その解の時間的・空間的なパターンのパラメータによる変化を扱っている。本講演ではまず、パラメータの変化により現れる時間的・空間的なパターンを分類して数値的に相図を作成し、次に、平衡解が不安定化する条件を導出し、この条件に応じて時間的・空間的なパターンが移り変わることを示した。連続系における数理現象を解析した既存研究はあるが、離散系において数値的に相図を作成し、Turing 不安定性との比較を行った点において新規性があり、また、この結果は松家氏が提案した離散 Gray-Scott モデルが適切な離散化となっている一つの証拠を与えたという点でも評価に値する。講演のスライドにおいても、時間的・空間的なパターンとその分類を色つきのグラフで視覚的にわかりやすく紹介するなど工夫が見られた。

佐竹 翔平

(さたけ しょうへい)

(神戸大学)

[講演題目]
  
On pseudo-randomness of digraphs and ranking tournaments

[講演概要]
  
本講演では、完全グラフの向き付け(トーナメント)が総当たりゲームの勝敗関係を表すとき、プレイヤーの優劣を表すランキング付けがどの程度矛盾なく行えるかについて、構成的方法でアプローチした。特に、グラフの pseudo-random property を用いた従来法に対し、グラフの pseudo-random property がその隣接行列の固有値を用いて記述できることに着目して一般化し、Erdős-Moon の問題および FAST と呼ばれる問題についてより一般的な構成法を示し、これらの問題の研究を大きく進展させた。予稿および講演のスライドにおいても、一般的解説から証明の詳細にまで専門家以外への配慮が行われている。

橋本 侑知

(はしもと ゆうじ)

(東京大学)

[講演題目]
  
超特異性判定アルゴリズムの効率化とその暗号応用

[講演概要]
  
本講演では、耐量子暗号の構成法として近年注目されている、超特異楕円曲線の同種写像を扱っている。特に、暗号系を構成するために必要な、楕円曲線の超特異性判定アルゴリズムの高速化に取り組んだ。本講演では、従来法の同種写像計算の部分に着目し、これを吉田・高嶋による方法を適用して、演算時間を理論的に削減するとともに、数値実験でもその有効性を示した。講演のスライドにおいても従来法を図を用いてわかりやすく説明するとともに、これと対比させる形で提案法を簡潔に説明している。