論文賞, ベストオーサー賞 2020年度
(著者の所属は論文発表時のもの)
論文賞 | ||
理論部門 | [論文]
有限要素解の定量的な局所事後誤差評価について [著者] 中野 泰河, 劉 雪峰 [受賞理由] 有限要素法は,微分方程式の数値解法として広く利用されており,構造解析,流体解析,電磁場解析など,様々な応用がある.ポアソン問題は数値解析分野における典型的な例題であり,その有限要素解に対する誤差評価は重要な研究テーマのひとつである.有限要素解に対する従来の誤差評価理論として,バブシュカが開発した方法がよく知られているが,これは全領域に対する大域的な誤差評価であり,局所的な誤差評価ではないため,関心のある領域における誤差に対しては過大な評価となっていた.また,従来では,局所的な事後誤差評価は定性的な評価(収束オーダによる評価)がほとんどであった. |
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応用部門 | [論文]
パーシステントホモロジーとレーブグラフを用いた2次元ハミルトンベクトル場の流線位相構造の自動抽出アルゴリズム [著者] 宇田 智紀, 横山 知郎, 坂上貴之 [受賞理由] 本論文はハミルトンベクトル場における等高線の構造変化、特に定性的な位相的構造の変化として非定常流れ場の運動を理解するための試みに端を発する.先行研究により局所的分岐解析の他、トポロジー・組み合わせ論の方法による等高線の位相構造の分類法が提案されている.著者らは後者の立場で、先行研究において構造安定性の概念を持ち込む事で、全ての構造安定なハミルトンベクトル場の流線構造が有限個の再帰的パターンの組み合わせで記述でき、さらにこれらに固有の有限文字列を割り当てられることを示した.これは「語表現理論」として、画像データ内の流線構造の単純な抽出、処理を可能とする幅広い応用の可能性があるものとして提唱されている.しかし語表現を自動的に生成するアルゴリズムの構成・実装が難しいことから、実際の問題への適用には大きな障害があった.本論文はハミルトニアンのレーブグラフによる語表現取得、パーシステントホモロジーを用いたレーブグラフの構成方法を取り入れ、与えられたデータから語表現を自動生成する手法を構成・提案したものであり、上記の課題の解決に大きく貢献するものである. |
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ノート部門 | [論文]
Exponential Integrator に現われる行列関数の改良計算法 [著者] 中村 真輔,小澤 一文,廣田 千明 [受賞理由] stiffな連立常微分方程式に対する効率的な数値解法として,右辺を線形項と非線形項とに分離し,前者を厳密に解くexponential integratorがある.この解法では,行列φ関数と呼ばれる行列関数の評価が計算の中心であり,そこでは有理関数近似とscaling and squaringという手法の組み合わせが用いられる.しかし,用いる有理関数近似の最適な選択法やscaling and squaringの高精度な実装法については,まだ十分な研究が行われていなかった. |
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JSIAM Letters部門 | [論文]
Truncation error estimates of approximate differential operators of a particle method based on the Voronoi decomposition [著者] Yusuke Imoto, Daisuke Tagami [受賞理由] 本論文は実用的な数値計算手法で広く利用されている粒子法、特にSPH 法およびMPS 法に現れる近似微分作用素の打ち切り誤差を領域のボロノイ分割に基づいて評価し、誤差の収束次数が数値結果と合致することを確認した.粒子法に対する理論解析研究は当時希少であり,本研究成果は粒子法を数学的枠組みで捉える先駆的な結果である。以上から、本論文は日本応用数理学会論文賞(JSIAM Letters 部門) の受賞に相応しいと判断する。 |
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JSIAM Letters部門 | [論文]
Analyzing time evolution of constraint equations of Einstein’s equation [著者] Ryosuke Urakawa, Takuya Tsuchiya, Gen Yoneda [受賞理由] 本論文では、束縛条件を付加したアインシュタイン方程式の数値計算において、時間発展安定性をもつ補正手法を提案している。従来、固有値解析による伝搬拡大係数の計算は困難であったが本論文では適切に実行し安定性を予測している。重力崩壊の数値シミュレーションにおいて、適切なバックグラウンドでの整合性と不適切なバックグラウンドにおける不整合を確認している。提案手法は適切なバックグラウンドの発見が困難な場合でも適用可能であり、実際に物理モデルのシミュレーション利用が期待される。以上により、この論文が日本応用数理学会論文賞(JSIAM Letters 部門) にふさわしいものと評価する。 |
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JSIAM Letters部門 | [論文]
Improvement of the double exponential formula with conformal maps based on the locations of singularities [著者] Shunki Kyoya, Ken’ichiro Tanaka [受賞理由] Double Exponential (DE) 公式は、本邦発の世界的に広く使われる数値積分公式で,被積分関数が滑らかな時、特に解析的な時に、非常に高精度である。しかし、被積分関数が実軸の近くに特異性を持つ場合に精度が低下する。著者らは、特異点を実軸から離すSlevinsky とOlver による変換方法の改良手法を提案し、具体的な数値例により高精度積分の達成を確認している。本提案手法はDE 公式の困難を解消し,かつ,その一般化でもあり、更なる研究の深化・発展が期待される。以上より、本論文は日本応用数理学会論文賞(JSIAM Letters 部門) の受賞に相応しいと判断する。 |
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JJIAM部門 | [論文]
An efficient linear scheme to approximate nonlinear diffusion problems [著者] Hideki Murakawa [受賞理由] |
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JJIAM部門 | [論文]
Iterative refinement for symmetric eigenvalue decomposition [著者] Takeshi Ogita and Kensuke Aishima [受賞理由] |
ベストオーサー賞 | |
論文部門 | [論文]
総合指数の数理 [著者] 清智也(東京大学 大学院情報理工学系研究科) [受賞理由] 本稿では,総合指数における重みをデータの分布のみから決定する方法について論じている.既存のものとして,そのまま,あるいは標準化してから足し合わせる方法や,主成分分析や因子分析により求められた係数を利用する方法などが挙げられるが,著者は,各変数と総合指数の共分散が正となる重みのうち,適当な条件を満たすものを客観的総合指数と呼び,この構成法や因子モデルとの比較について解説している構成については,対角スケーリングの結果や二者択一定理の証明も与えた自己完結的な形でなされており,比較については,客観的総合指数が因子モデルによる推定値のある種の極限として解釈できることなどが丁寧に述べられている.総合指数は,陸上混成競技の得点,大学ランキング,株価指数など,応用例が非常に広範囲かつ膨大なものであり,多くの読者にとって馴染みのある量である.本論文は,このような親しみ深い対象についての明快で優れた解説となっている. |
インダストリアルマテリアルズ部門 | [論文]
論文名:半導体製造工場における Virtual Metrology 技術 [著者] 岡崎隼也(ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング株式会社) [受賞理由] VM (Virtual Metrology) 技術とは,製造工程における加工装置データや中間の製品出来栄えデータなどを用いて加工寸法などの計測値を予測する技術である.VM技術により仮想的な全数計測が可能となり,計測コスト抑制と品質保証が両立できる上,従来,製造工程終了後に計測されていたデバイス特性などを工程途中で予測できるので,品質異常の早期検知も可能となる.本論文では,統計的手法を用いてVMモデルを作成する流れを説明した後,半導体製造工場でVM技術を活用し,その有効性が確認できた事例について解説している.数理的手法が産業で有効に活用されている状況を強く印象付けていることから,ベストオーサー賞選考委員会は,本論文が日本応用数理学会ベストオーサー賞(インダストリアルマテリアルズ部門)にふさわしいものと評価した. |