理論部門 |
[論文]
メッシュフリー粒子法における差分公式の打ち切り誤差解析
(日本応用数理学会論文誌 Vol.20, No.3, 2010, pp.165–182)
[著者]
石島 清宏(九州大学大学院数理学府修士), 木村 正人(九州大学大学院数理学研究院准教授)
[受賞理由]
本論文は,近年応用分野で盛んに用いられているメッシュフリー粒子法に対して,新しい理論解析の方向性を示唆したものである.
メッシュフリー粒子法は領域形状が複雑に時間変化するような,通常の差分法や有限要素法が不得手とする問題に対しても容易に適用できるのが特長であり,すでに様々な実用的問題に対してその妥当性が経験的に知られている.
しかしその反面,メッシュフリー粒子法には,差分法における格子間隔,あるいは有限要素法における要素の最大辺長と一様正則性パラメータのような適切な離散化指標がなく,これまで誤差の数学解析が十分に行われてこなかった.
本論文は,まず等体積分割半径と最短粒子間距離という2つの新しい離散化指標を導入し,それらがメッシュフリー粒子法に対して適切な離散化指標となりうることを指摘した.
さらに勾配差分演算子に対して,具体的にそれらの指標による誤差評価を与えた.
以上の結果は,応用上重要なメッシュフリー粒子法,および類似のフリーメッシュ法に新しい数学解析の可能性を拓くものであり,論文賞(理論部門)にふさわしいと論文賞委員会は判断した.
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ノート部門 |
[論文]
古典的多次元尺度構成法の視点からの関連性データの非対称性への対処
(日本応用数理学会論文誌 Vol.21, No.2, 2011, pp.165–174)
[著者]
熊谷 敦也(日本大学商学部講師)
[受賞理由]
多次元尺度構成法は,複数のデータについて,対ごとの(各2データ間の)類似度が与えられている時に,データ間の関係を適当な次元のユークリッド空間のベクトルで表現する手法である.
この手法では,各データをベクトルに対応させ,2つのデータに対応するベクトルの差のユークリッドノルムがデータ間の類似度の良い近似値となるように,ベクトルをうまく与えることが主要な問題となる.
設定は異なるが実質的に同じ問題が,多数のセンサー間の距離からセンサー同士の位置関係を復元するセンサー位置決め問題として注目され,現在盛んに研究されている.
類似度が正確にベクトルの差のユークリッドノルムとして表現できるという前提の下なら,このようなベクトルを求めることは近年実用化された半正定値計画問題を用いて可能である.
これまでの多次元尺度構成法では類似度はデータの入れ替えについて対称であることが前提とされてきた.
しかしながら,類似度の基準の取り方によってはその対称性がくずれている場合もあり,そのような場合への拡張は興味深い問題である.
本論文では補助的なベクトルを導入して類似度の非対称部分を表現し,類似度とベクトル・補助ベクトルの間に2次の関係式を導入して,与えられた類似度からベクトルを推定し,非対称類似度を取り扱うことを提案している.
さらに,推定する問題が半正定値計画問題に帰着できることを示し,補助ベクトルの意味について考察を加え,一定の立場から合理的な解釈を導いている.
半正定値計画法の応用例としても興味深く,萌芽的ながら鋭い着想を含んでおり,この分野に新たな展開を呼ぶ可能性のある研究である.
以上の理由により,ノート部門での授賞に相応しい論文であると論文賞委員会は判断した.
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JJIAM部門 |
[論文]
A Numerical Algorithm for Block-Diagonal Decomposition of Matrix *-algebras with Application to Semidefinite Programming
(Japan Journal of Industrial and Applied Mathematics
Vol.27, Issue 1, June 2010, pp.125–160)
[著者]
Kazuo Murota(University of Tokyo), Yoshihiro Kanno(University of Tokyo), Masakazu Kojima(Tokyo Institute of Technology), Sadayoshi Kojima(Tokyo Institute of Technology)
[受賞理由]
対象の構造を数理的に記述しそれを解析することによって, 陽には見えていない対象の性質を浮き彫りにする数理モデリング・数理解析は, 応用数理の実践において最も重要な過程である.
本論文は行列の同時ブロック対角化を扱ったものであるが, この間題もそのような有用性の期待される問題の1つである.
与えられた複数個の対称行列を同時にブロック対角化するための直交行列を求める問題は, 最適化分野(とくに半正定値計画法)においてその重要性と有用性が認識され, 近年, 世界中で活発に研究が行われている.
しかし, 本論文以前の研究は, 最適化問題がもつ幾何学的群対称性をもとにした対角化であり, 実用家から見て重要と思われる行列そのものの疎構造(成分がゼロであるか, ゼロでないかの構造)は勘案されてこなかった.
また, 幾何学的群対称性は事前に設定する必要があり, 問題に隠れた対称性がある場合には, その対称性は勘案されなかった.
これに対して, 本論文は, 行列の疎構造や隠れた対称性も考えに入れた同時ブロック対角化の算法を与え, さらにそれを実用レベルの問題に適用し,算法の有効性を実証している.
この算法は, 幾何学的群対称性を利用する算法で用いられた *代数に基礎をおき, 数値的な固有値計算だけを用いることによって目的を達成したものである.
さらに, この算法から出発した一連の研究は, 最適化の分野に限らず, 信号処理における独立成分分析においても注目され, 新たな応用が拓けている.
このように実用的観点から問題を考え, それを抽象化し, 数学的道具を適切に用いて解決をはかり, さらには実用レベルで有効性を検証していることが, 応用数理にふさわしいと評価された.
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