論文賞, ベストオーサー賞 2005年度

論文賞
理論部門 [論文]
  
常微分方程式系の解の爆発時刻および爆発レートの推定法 – 偏微分方程式への爆発問題への応用 –
(日本応用数理学会論文誌 Vol.14, No.1, 2004, pp.13-38)

[著者]
  
廣田 千明(秋田県立大学), 小澤 一文(秋田県立大学)

[受賞理由]
  
本論文は,常微分方程式系の初期値問題に対する解の爆発問題に対し,
解の爆発時刻を推定する新しい方法を提案し,
その有効性について,
爆発解をもつことが知られている非線形放物型偏微分方程式を離散化することで得られる
常微分方程式に対して適用し,
方法の有効性を検証したものである.

本論文における方法の基になるアイディアは,森口 繁一の考案になる解曲線の長さを新たな独立変数として用いるというものである.
本論文では,解の爆発時刻を与える積分表現に依拠して,
爆発時刻近傍における解の特異性に関する仮定をもとに爆発時刻に一次収束する数列を生成するアルゴリズムを提案している.
また,その数列に対し,Aitken の Δ2法による加速が有効であることを示し,
解の爆発レートに対する推定式を与えている.

  
以上のことから,爆発解を持つ発展方程式の爆発時刻に対する有効な新しい計算法を与えた本論文の内容は,
この分野の今後の発展に大きく寄与する可能性を秘めており,
理論部門の論文賞に相応しいと評価された.

ノート部門 [論文]

  
二重指数関数型数値積分公式の収束判定法の改良
(日本応用数理学会論文誌 Vol.13, No.2, 2003, pp.225 – 230)

[著者]

  
大浦 拓哉(京都大学)

[受賞理由]

  
本論文は,二重指数型数値積分公式(以下 DE 公式)
の信頼性と計算効率をともに向上させる方法を提案している.
応用上重要な積分の多くを,DE 公式を用いて効率的に計算できることは良く知られている.
しかし,従来の離散化誤差計算を用いてさらに精度を上げようとうとすると,
計算効率が悪くなる場合がある.
この問題に対して,著者は重み付き積分の離散化誤差計算を導入して
精度を二重に保証することにより,精度を上げても効率よく計算できる方法を考案した.
この重み付き積分は標本の増加なしで高速かつ容易に計算でき,
離散化誤差の評価式は対象としている積分と同じ形式で与えられる.
二つの離散化推定誤差の大きい方を用いて収束判定を行うことにより,
従来の方法と比べて安全因子を大きく設定することが可能となり,
その結果計算量も少なくなる.
具体的な計算例では,従来の方法と比べて,同じ精度で2~3割の程度の計算時間の短縮が確認されている.

  
以上のように,本論文は実用上重要な問題点をエレガントに克服する方法を提案したもので,
内容も簡潔にまとめられている.
よって,ノート部門の論文賞に相応しいと評価された.

JJIAM 部門 [論文]

  
Bifurcation of a helical wave from a traveling wave
(JJIAM Vol.21, No.3, 2004, pp.405-424)

[著者]

  
T. Ikeda (Ryukoku Universitiy),
M. Nagayama (Kanazawa University) and
H. Ikeda (Toyama University)

[受賞理由]

  
本論文は,ある反応拡散系に現れる進行波の安定性について解析している.
セラミクスや合成素材は一般に高温燃焼によって作られる.
この際,燃焼が一様に進行すれば均一な素材ができあがるが,
環境が変化すると,燃焼は脈動振動することがあり,
そのとき素材に欠陥が生じる.
このような背景を動機として,本論文では,
一様進行燃焼が不安定となる環境条件を数理的に考察している.
まず燃焼を記述するモデル方程式を導出し,
その 3次元数値シミュレーションから,
ある状況下では一様進行燃焼が不安定になり,
ヘリカルな脈動燃焼が現れることを見いだした.
次に,一様燃焼に対応する進行波解の安定性解析を行い,
その固有値問題から,ホップ分岐現象が起こることを示し,
その結果,脈動進行波が現れることを結論づけている.
ここで扱われている問題は,
多くの実験と数値シミュレーションによって研究されてきた工学的問題である.
本論文は,実験家との共同研究の経験の上にたって反応拡散系に現れる進行波解の安定性を解析することによって,
応用数理の視点からこたえたものであり,受賞に相応しいと判定された.

ベストオーサー賞
論文部門 [論文]
  
肺の構造をコンピュータで作る
(応用数理 Vol.12, No.1, 2002, pp.2-13)

[著者]
  
高木 隆司 (東京農工大学),
北岡 裕子 (大阪大学)

[受賞理由]
  
本論文は,肺気道全体を計算機シミュレーションによって構築するという著者等の新しい試みについて分かり易く解説したものであり,
構築された肺気道が実形状に近い形状を再現しているという事実も示されており,
「応用数理」読者に広くアピールすると考えられる.
応用数理の医学分野への応用という応用数理のフロンティアを示す論文であり,この点も評価される.

論文部門 [論文]
  
階層的材料シミュレーション
(応用数理 Vol.14, No.1, 2004, pp.24 – 47)

[著者]
  
兵頭 志明 ((株)豊田中央研究所)

[受賞理由]
  
近年の計算機能力の飛躍的増大に伴って,
ミクロ,メソ,マクロといった階層を跨いだシミュレーションが可能になりつつあり,
最近, 注目を浴びている.
本論文は材料設計におけるこの階層を跨いだシミュレーションの方法を実例と共に丁寧に解説したもので,
「応用数理」読者にとって有用な情報を提供している.
また,階層を跨いだシミュレーション技術の開発に数理的アプローチが貢献する可能性も示唆しており,この点も評価される.