論文賞 |
理論部門 |
[論文]
複素固有値に対する変分公式と母音の数値シミュレーション
(日本応用数理学会論文誌 Vol.16, No.3, 2006, pp.237-253)
[著者]
東田憲太郎(電気通信大学), 加古孝(電気通信大学)
[受賞理由]
本論文は, 物理的音声生成過程に関する数理モデルに基づいた音声生成手法を提案するもので
ある. まず, ウェブスターのホルン方程式によって声道を音響導波路としてモデル化する. フォ
ルマントの位置と強さがモデルより従う2 次元非線形複素固有値と密接に関係することに着目
し, 目的とする音声を発生するための声道形状を求める形状設計問題を, 複素固有値の変分公式
を利用して得られる最適化問題として定式化する. そして, この問題を解いて目標とする周波数
応答を有する声道を設計し, その妥当性について数値的に検証している. 音声合成という重要な
問題に対し, 簡潔なモデリングを行った上で, 有限要素法, 最適化等種々の数理的手法を有効に
駆使して解析が進められており, 数理的モデリングの興味深い例として, 論文賞に値すると論文
賞委員会は判断した.
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サーベイ部門 |
[論文]
密行列固有値解法の最近の発展(I)
– Multiple Relatively Robust Representations アルゴリズム –
(日本応用数理学会論文誌 Vol.15, No.2, 2005, pp.181 – 208)
[著者]
山本 有作(名古屋大学)
[受賞理由]
本論文は, 実対称行列あるいは複素エルミート行列の固有値問題の解法について, 近年特に有
望視されているMultiple Relatively Robust Representations アルゴリズムを中心にサーベイし
たものである. 同手法は時間をかけて発展してきたため, 全容を見通しよく知ることは難しかっ
た. 本サーベイは, 統一的な視点の下に, 誤差解析まで含めた基本的な結果が見通しよく述べら
れている. また, 2 分法や逆反復法等他の基本的な手法についても, 長所や短所が要領良くまと
められている. 実対称行列・複素エルミート行列の固有値問題は科学技術計算の中核に位置す
る重要な問題であり, 現在も発展を続けている本手法について丹念に調べ, 分かりやすく解説し
ている本サーベイは, 研究者にとっても利用者にとって有用である. 以上の理由より, 本論文は
論文賞に値すると論文賞委員会は判断した.
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ノート部門 |
[論文]
自動微分とDE 公式を用いた非整数階微分の数値計算
(日本応用数理学会論文誌 Vol.16, No.1, 2006, pp.51 – 65)
[著者]
岡山 友昭(東京大学), 村重 淳(公立はこだて未来大学)
[受賞理由]
本論文は, 非整数階微分の計算法に関するものである. 非整数階微分は粘弾性体力学をはじめ
とする種々の分野で利用されているが, その計算法は確立していなかった. 本論文は, 非整数階
微分のRiemann-Liouville の定義に基づいて, 自動微分とDE 公式(2 重指数変換積分公式) と
いう, 2つの洗練された数値計算アルゴリズムを組み合せて非整数階微分を計算するという新し
いアプローチを提案し, 数値実験によって, 既存の方法と比較してその有効性を示している. 本
論文は, 非整数階微分という今後適用範囲が拡大していくと思われる量に対し, 筋の良い計算手
法を部品としてうまく組み合せてまとめあげ, 正確で効率的な非整数回微分の計算に成功した
点が評価できる. 以上の理由により, 本論文は論文賞に値すると論文賞委員会は判断した.
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JJIAM部門 |
[論文]
Mathematical Modeling Analysis for Obtaining an Optimal Railway Track Maintenance Schedule
(Japan Journal of Industrial and Applied Mathematics, Vol.23, No.2, 2006, pp.207 – 224)
[著者]
Tatsuo Oyama and Masashi Miwa (鉄道総合研究所)
[受賞理由]
鉄道線路は,列車の走行という過酷な荷重に日夜さらされ,レールの沈下などの劣化を避けられない.
これを定常的に保全することは,
安全のために必須の作業である.
本論文は,この線路保全作業計画の最適化を実現する方法を提案したものである.
線路の劣化は一様ではない.
列車の運行数,地盤の堅さなどによって場所ごとに劣化の進行が異なる.
本論文では,線路劣化の実測データから,劣化頻度がロジスティック分布によく当てはまることを見出し,
それに基づいて,劣化進行モデルを作った.
そして,保全の区間,
期間,
人員などの制約のもとで全体の劣化改善の程度を最大にする最適化問題として定式化し,
保全対象区間を選択するフェーズと,
人員等を割り当てるフェーズの2段階に分解して解く方法を提案している.
この手法の有効性を,
国内の実際の路線データでも確かめている.
都心近く列車運行頻度の高い路線,
積雪のために保全のできない期間の長い路線など,
いくつかの異なる性質の路線を選んで,
本手法による年間計画が,
実際に行われる保全実積より優れていることを確認している.
このように,本論文は,鉄道線路の保全という実用上重要な問題に対して,
計画手法を提案し,
その有効性を確かめたものであり,
応用数理の実問題への応用分野を広げるのに大きく貢献するものである.
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